現在、TOBYO収録の闘病サイトコレクションは4万9千件を越え、近いうちに5万件に到達するだろう。収録ページ数はおよそ9百万ページだが、これは収録サイト5万件に達した時点で、だいたい1千万ページになると推測される。
2008年にTOBYOをローンチした時点で、私達はネット上の闘病サイト集合全体を「闘病ユニバース」と名づけ、その規模を約3万サイトと想定していた。しかし、その後、様々なデータを突き合わせてみると、2008年時点では、闘病ユニバースの規模はまだ約2万サイト程度に過ぎなかったことが判明している。その後、闘病ユニバースは膨張してきたわけだが、現在、その規模は5万6千~6万サイトと推定される。そうすると現時点でTOBYOは、闘病ユニバースの少なくとも8割以上をカバーしているとみてよいだろう。TOBYOは、闘病ユニバースの拡大に歩調を合わせて成長してきたわけだ。
4月14日からバーティカル検索エンジン「TOBYO事典」の検索対象データを拡大した。これまでは2009年までの約300万ページが検索対象だったが、これを2013年5月までに収録したおよそ670万ページに拡大した。これはいずれ、リアルタイムでTOBYOクローラが取ってきた収録件数に合わせることになる。ユーザーには、できるだけ最新のデータを提供していかねばならないと考えている。
TOBYOはこのように、いよいよ「5万件、1千万ページ」の規模へ達しようとしているわけだが、私達の目指してきたものは、単に「ウェブ上の闘病体験ドキュメントを集める」ことではなかった。言ってみれば、TOBYOは「目的」を実現するための手段にすぎない。ではその「目的」とは何かと問われれば、それは「患者による医療評価」ということになる。そして、やっとその「目的」を実現することができるところまで来たと思っている。
たとえばコンビニであれ、外食レストランであれ、銀行であれ、すべてのサービスの品質を評価するのはいうまでもなくコンシューマーである。実際にそのサービスを体験したコンシューマーの評価が、そのサービスの実質的な価値を決定し、改善や新規サービス開発のトリガーとなっている。サービス提供者は常にコンシューマーの評価に注意をはらい、コンシューマーのニーズをいかに充足するかに腐心する。こんなことは今日あたりまえになっているのだが、こと医療に関する限りそうではない。
医療業界には「患者の声を重視する」、「患者中心医療」等々のスローガンはあっても、他業界のように、実際にコンシューマー(患者)の評価に注意を払うということは、残念ながらなかったのではないか。私達が起業したころ、最初に目指そうとしたのは、このような現状をなんとか変えようとすることであり、患者視点による医療評価指標を構築することであった。最初、ピッカー研究所などの患者体験調査を利用した方法を模索していたが、結局それは、従来の患者満足度調査と変わらない方法(アンケート調査)を採用せざるを得ず、「目的の新規性」と「方法(手段)の旧弊」の矛盾に逢着することになった。
その後、ソーシャル・リスニングなどの新しい考え方がこの問題を解決すると思われたが、結局、この流れもコミュニティリサーチなどに収斂してしまった。これらを横目で眺めながら、ひたすら闘病サイトをコレクションしてきたが、それは「そのうち患者の医療評価を、ウェブから技術で抽出できるようになる」との、何の根拠もない確信があってのことである。
そして実際に、「5万サイト、1千万ページ」というデータサイズをようやく扱えるようになってみると、この「何の根拠もない確信」がにわかに現実的な姿形を持ちはじめた。この間の自然言語処理と機械学習の進化によってである。そして今、「患者による医療評価」をウェブから自動的に抽出・分類・集計するサービスを実際に動かす日が来ている。
手段から目的への回帰。これからいよいよ「患者による医療評価」という、私達の究極的な目的を実現する時が来た。まず手始めに、患者ブログ調査プラットフォーム「dimensions」の第四番目のコンテンツとなる「OPINIONS」を近々リリースする。これは文字通り「患者の医療に対する意見・評価」を患者ブログから抽出し、評価タイプや極性(ポジティブ、ネガティブ)に分類し、集計するものである。また、2年前から仮説として構想していた「仮想アンケート調査」もいよいよ実現できるようになった。時間はかかったが、いよいよこれから「患者による医療評価」を社会に向けて配信する。
三宅 啓 INITIATIVE INC.