私たちのTOBYOプロジェクトは「ネット上のすべての患者体験を可視化し検索可能にする」とのミッションのもとに、主として闘病ブログなどで公開された「患者の声」を幅広く収集し、様々な人々に届けようと努力してきた。これと同様の発想で、「ネット上に公開された医師の声を集める」というプロジェクトがあっても良さそうだと思っていた。それが最近になって、どうやら米国で始まりそうだ。
昨年、Katherine Chretien医師 を中心とするグループが、Twitter上の医師の声を収集分析した調査報告書「Physicians on Twitter」をJAMAに発表し話題になった。この調査において、Chretien医師はTwitter上で医師が配信したと思われるTweetを収集した上で、523人の医師と推定されるユーザーを特定し、さらに最終的にそれを260人まで絞りこみ、それぞれ一人当たり20件ずつTweetを選び出し、最終的に全部で5,156件のTweetを分析した。ずいぶん手間のかかる調査方法である。
Twitterのようなソーシャルメディアを医師が利用することについては、従来から、医師が患者の情報をもらしたり、差別発言など不適切な発言をするのではと問題視されてきた。しかしこの調査報告によれば、それら問題となるTweetは全体の3%に過ぎなかった。この調査報告書の登場によって、米国医療界ではにわかに「Twitterを利用したオープンな医師の声の共有」という考え方や、「Twitterを医師調査プラットフォームに利用する」というアイデアのリアリティと受容性が高まったと言われている。
そしてこれらに呼応する形で、早速、今年五月から新プロジェクト「MDigitalLife」がMayoClinicをはじめとするプロフェッショナル・グループによって立ち上げられた。上のビデオはそのティーザー広告である。MDigitalLifeはまずNPI(National Provider Identifier)で身元を確認した1400人の医師ネットワークをTwitter上に構築し、試験的に五ヶ月間で4万件のTweetを収集分析したようだ。その調査結果はちょうど今(10月16日、17日)ロチェスターに本拠を構えるMayoClinicのソーシャルメディア・センターで開催されている“Healthcare Social Media Summit”で発表されるらしい。
「医師の声」であれ「患者の声」であれ、従来、これらを集めるためにはクローズドなコミュニティに医師や患者を囲い込み、ポイントなど様々なインセンティブを供与してウェブ・アンケート調査等を実施するケースが多かった。だが、ポイントなどインセンティブによって喚起される医師や患者の「声」というものが、そもそも「バイアス・フリー」であるはずがない。「質問-回答」というレガシー調査のデータ生成の枠組みで得られた「声」よりも、オープンなソーシャルメディアでの自由なつぶやきや会話の方がより「生の声」に近いことは言うまでもない。
私たちのTOBYOプロジェクトはブログなどでオープンに公開された「患者の声」から、患者体験、センチメント、医療評価、さらに患者の一般意思を抽出することをめざしている。同様に、「医療者の生の声」をソーシャルメディアから収集分析するという新しいプロジェクトが動き始めた。そして、Twitterなどソーシャルメディアを調査プラットフォームに利用することが現実味を帯びてきている。これは「クローズドからオープンへ」と発想を解放する道だと思う。そこが非常に重要なのだ。日本でも誰かが始めるだろう。
三宅 啓 INITIATIVE INC.