4月とは思えない寒い日が続いたが、今日は明るい日差しがたっぷりの爽やかな一日だった。今月は痛風のためほとんど断酒状態で過ごしたが、晩酌をやめると読書にたっぷり時間が取れるのがいい。このまま酒を断つのも悪くないと考えるようになった。
発想が煮詰まりプロジェクト進行が停滞したときは、とにかくまったく関連性のない分野の本を読むにかぎる。別に「何かヒントを掴んでやろう」などと考えずに、ただひたすら思考を別の方面へ向け、そして存分に楽しむことだ。そうすれば、また新鮮な興味を持って仕事を始められる。
TOBYOプロジェクトは今年に入って急速に前進したと思う。収録サイト件数が2万件まで来たこともあるが、いろいろな意味でプロジェクト全体の方向性が視界良好になった。何よりもDFCというキイワードによって、B2Bビジネスが明確になったことが大きい。これによってプロジェクトの事業ドメインがはっきりし、投入する商品を特定することができるようになったわけだ。
昨年秋頃、NPOへの移行を検討していた。いろいろな理由があったのだが、「この分野では『善意』というものを前面に出さなければ、多くから共感してもらえないのか」というような思いがあったことは事実だ。だが時間をかけて考えているうちに、単にNPO的な善意を示せばそれでよいみたいな、安直でしかもそれこそ「善良なる浅慮」ではイノベーションを起こすことなどできないと思うようになった。「フツウの企業」こそが、社会をより良い方向へ変えられることを実証すべきだ。
私たちは「闘病記」から出発したのだが、やがてそれを越えて行かねばならないと思うようになった。ネット上に公開された膨大な量の医療体験を古いパッケージに閉ざすのではなく、それを社会的に環流させることによって、闘病者をはじめ様々な医療関係者に活かしてもらうためのイノベーションを創出することが必要なのだ。私たちは、もともと「闘病記」の評論家や研究者や編集者を目指していたのではなかった。まして「闘病記屋さん」などを目指すはずもない。
何か医療とその周辺には、物事を後ろ向きに連れ去ろうとするような、そんな磁場があるような気がする。医療が社会全体の中で「IT後進領域」としばしば指摘されるのも、そんな磁場のためかもしれない。
このような磁場は、常に新しい展開を阻止する方向へ働き、たとえばインターネットによって実現される新しいコミュニケーションの可能性を矮小化し、古い枠組みの中へ隠蔽しようとする。このような磁場の存在を批判し乗り越えていくためには、「善意」ではなくイノベーションの創造が必要なのだ。医療において個をエンパワーするイノベーションが必要なのだ。
三宅 啓 INITIATIVE INC.