今週のNew England Journal of Medicineで発表された調査結果によれば、EHR(Electronic Health Records)を導入している米国の病院はわずか9.1%にとどまり、EHRの包括的システムを導入している病院は1.5%、基本システムだけの導入は7.6%であることがわかった。
この調査はハーバード大学公衆衛生学部が実施したもので、AHA(全米病院協会)加盟のすべての急性期医療病院を調査対象としており、回答率63.1%、回答数は3,049病院。また、上記「包括的システム」とは、病院内のすべての診療科に設置されているEHRのことを指し、「基本システム」とは、数か所の診療科だけに設置されているEHRを指している。一般的傾向として、EHR導入実態は病院の「規模、立地、運営形態」と相関があり、導入率が高いのは「大規模病院、大都市立地、大学付属病院」であるとの調査結果になった。
EHRを導入しない病院側の理由は、「資金不足」(74%)、「メンテナンスコスト」(44%)、「医師の抵抗」(36%)となっている。
(以上iHealthBeat March 25, 2009より)
昨日、日本のレセプト電子化の頓挫を取り上げたが、以上の米国調査を見ると、どうやら医療とITの相性が悪いのは日本だけではないらしい。EHRの導入障壁として、相変わらず「資金不足」とか「メンテナンスコスト」が挙げられているが、米国の場合、一方ではオープンソースEHRや無料EMRまでが登場してきており、これら常套文句の理由には納得いかないのだ。というか、本当の理由は財源やコストではなく、医療界の「ITに対する無関心」にあるのではないか。そしてこの「ITに対する無関心」は、とりもなおさず「費用、効率、透明化に対する無関心」に繋がっているのではないのか。
それにしても、医療情報の入口となる医療現場での電子化が遅れるということは、その後ろに控えるPHRなどシステムへのデータ供給が滞ることを意味する。 これではブッシュ前政権が提起し、オバマ政権が引き継いだ「全米の全医療情報の電子化」など実現できるわけがない。先ごろ発表された日本政府の「医療IT戦略」とやらも、レセプト電子化さえ実現できないのに、どうやって実行できるのだろうか。
三宅 啓 INITIATIVE INC.