DTC検査サービス:MyMedLab

MyMedLab

ウェブは、時にはリアルでは困難な新しいプレイヤー同士の結びつきや経路を創出する。これは一種の流通変革と考えることもできよう。医療においてもその「流通」過程にウェブを介在させることによって、新しい経路が開かれ、新しい事業が生み出される可能性はある。ただ、その自由度は他の産業に比べるときわめて狭いだろう。自由自在に経路を開き、異なるプレイヤー同士の結びつきを作るには、医療を取り巻く諸規制はあまりにも厳格である。とは言え、消費者視点で従来の医療を変革する挑戦はすでに始まっている。昨年11月、DTC検査サービスをリニューアルし、サイトを新たにリローンチしたMyMedLabもその一つとして注目される。

DTCとは”Direct to Consumer”の略で、通常よく使われるのは「DTC広告」などの場合だが、これは製薬メーカーが医療用医薬品を消費者へ直接広告することを指している。同様に、普通、医療検査は医師の判断に基づいた上で検査機関が実施するが、DTC検査では消費者が直接検査機関に発注する。

「初期段階から、MyMedLabのミッションはシンプルである。消費者に、自分の健康状態を個人的に知るための、価格は手頃で便利な方法を提供すること。毎年の定期検診と組み合わせれば、われわれの検査は、予防注力と早期発見に焦点を置く未来の医療の土台を創造する。」(MyMedLab Story)

医師を通さないで直接検査を発注するから、消費者は自分の健康状態を「内密に」(Privately)に知ることができ、ウェブ受注や検査結果のPHR通知などの合理化により、価格も通常価格よりは相当安くなる。もちろん医療行為としての品質を担保する必要があるが、MyMedLabでは専門医師が検査受注レビューから結果解説まですべてのプロセスを監督するようだ。

ある意味で「内密に」という上記の言い方に違和感はあるが、考えてみれば医療保険会社や勤務先に知られたくない個人医療情報もあるだろう。日本では健保組合実施の検診結果などが、「社員の健康管理」という名目で雇用者側に筒抜けになっているケースさえある。いずれにせよMyMedLabは、米国における医療コンシューマリズムの高まりに着目したサービスであり、「消費者が自分の医療健康情報を、自分で直接獲得し、自分で知り、自分で管理する」というニーズに対応するものである。

MyMedLabのサイトには「Vision」と題するページがあり、そこには「信頼、透明性、変革」という三つのビジョンが掲げられているが、「変革」には次のように記されている。

「MyMedLabは次世代の医療消費者に、情報技術を梃子として、本物の継続的な価値を提供するHealth2.0企業の実例である。われわれは、医療システムに消費者が関与する仕方を変革することによって、この革命をリードするつもりである。知識に精通した医療消費者は、価格、品質、そしてアウトカム情報に関して充分よく説明を受け、自分の健康を維持するためにベストな選択をするように力づけられるだろう。」

ここまで明白にHealth2.0企業であることを宣言する例もめずらしいが、これはこのMyMedLabに、Health2.0ムーブメントの中心的理論家である、あのスコット・シュリーブ医師がチーフ医療担当役員として参画しているためであろう。これらビジョンを読むと、改めてHealth2.0が単なる医療情報技術のトレンドではなく、「医療における消費者の新しい役割の強化」をコアとする医療変革ムーブメントであることがわかる。

ちなみにスコット・シュリーブ医師がこのMyMedLabに参画したのは、彼が居住するカリフォルニア州において「消費者が直接検査を発注すること」が違法であることを知ったせいであるという。この「違法状態」をめぐり、彼は州の保健当局に抗議し、数ヶ月間の交渉を経て譲歩を勝ち取ったようだ。

「明らかにカリフォルニア州当局は、あなたや私のような消費者が自分で自分の医療を意思決定することを認めず、ライセンスを持った医師が検査を承認し、検査結果を消費者に見せる前に医師がレビューすることを要求している。その上、時代錯誤のパターナリスティックなこの法律は、一消費者として私が自分のお金で個人医療情報にアクセスすることを妨げるという辻褄の合わない不公正さでもって、私を困惑させているのである。」(“Consumer Enlightenment – The Power of Personalized Health”, CrossoverHealth,Scott Shreeve, MD)

ここで表白されているのは、「自己決定権」に対する強いこだわりである。おもわず「リバタリアン」という言葉が浮かぶが、このような「消費者の自己決定権」を軸とする新しい医療観というものが、どうやらHealth2.0ムーブメントの背景にあるような気がする。

言い忘れたが、マーケティングの観点から見れば、このサービスは単なるDTC検査サービスに、PHRなどウェブサービスを付加しているところがDifferential Advantageになっている。つまり「検査結果データをPHRで出力する」というアイデアが秀逸だのだ。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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