12月4日TechCrunchで、米国の代表的患者SNSの一つ「DailyStrength」が行き詰まり、HSW Internationaに買収されることが取り上げられていた。DailyStrengthは2006年春、Health2.0企業の中では比較的早期に立ちあげられ、500を超える患者コミュニティを擁する本格的な患者SNSサービスとして期待されていた。しかし、「DailyStrengthの月間ユニークビジター数は多い時でも70万人どまりだった」(TechCrunch)と伝えられており、集客が思うように進まなかったようである。
まだ詳細が分からないのだが、最も成功している患者SNSとされる「PatientsLikeMe」などと比較すると、どうも「500を超えるコミュニティ」というところに問題がありそうに思える。そう言えば、以前、DailyStrengthについて「患者SNSの場合、コミュニティが細分化されていくと1コミュニティあたりの参加ユーザー数は少数になり、コミュニティ自体の運動量の増加を妨げることにつながる」との指摘をどこかのブログで読んだ記憶がある。そのブログでは、DailyStrengthのコミュニティメンバーが書くエントリに対する閲読数やコメント数が、一般の汎用SNSなどと比べ桁違いに少ない点を指摘していたと思う。
対照的にPatientsLikeMeのコミュニティの場合、疾患は難病に絞りこみその数も少ない。すなわち、ニッチマーケティングを徹底して作られているわけだ。通常、このような少数特化セグメントへの集中は大きなリスクを伴うと考えられるが、難病患者ニーズに対するその卓越した洞察力ゆえに、PatientsLikeMeは成功したといえるだろう。そのことは、たとえば難病患者が自己のプライバシーよりも症状改善を優先しており、自己の医療情報の公開に抵抗がないことを見抜いてサービス設計に着手した点。また、コミュニティに対する患者ニーズは通常考えられているような「交際、交流」ニーズではなく、あくまで「症状を改善し病気を治す」という明確な目的あるいは目標を持ったニーズであり、この目的・目標に向け、具体的かつ実践的なインセンティブを提供しなければユーザーニーズは充足されないと見抜いていた点などに表れている。
つまり通常の汎用SNSと患者SNSを同一視するのではなく、対象とする患者ニーズというものを徹底的に洞察した上で最適なコミュニティを作り上げることが求められるのであるが、DailyStrengthの場合、ここが弱かったのではないか。
これらを考えると、患者SNS、あるいは患者コミュニティに固有の条件というものがいくつか見えてくる。おおざっぱに言ってしまえば、それは「コミュニティが発火点に達するための量の確保」と「患者ニーズという特殊なニーズの充足」という両面をどのようにバランスさせるのかという問題なのではないだろうか。そして、患者ニーズというものがぼんやりした情緒的なニーズではなく、「病気を治す」という明確な目的あるいは目標をもったニーズである点が非常に重要だと思われる。あらゆる患者サービス提供者は、目標に対する達成パフォーマンスが、常に患者ユーザーから問われているという点に気づかなければならないのだ。
三宅 啓 INITIATIVE INC.