米国のみならずEU諸国でも、米国のHealth2.0に呼応する新しい胎動が始っている。その中でドイツの状況を見ると、まずヘルス・エスタブリッシュメント側の取り組みとして、来月からPHR実験プロジェクトが起動する。ドイツ最大の医療保険会社Barmerは、PHRの利益と受容性を検証する三年間の実験プロジェクトを計画している。
この実験プロジェクトはBarmerの被保険者700万人にPHRを提供するものであり、被保険者は年間2500円-3500円程度の使用料でこのPHRを利用できる。登録ユーザーはかかりつけ医師など特定の関係者に、自分のPHRへのアクセスを許可することが可能であり、以下のような機能を含む。
- 診察アポイントメントと予防ケアのリマインダー機能
- 医療情報ライブラリー機能
- 危険な薬物間相互作用などのチェック機能
米国に見るように以前から医療保険はPHRを提供してきたが、これは顧客囲い込みツールという側面が強く、提供機能・ツールもおざなりなものであった。だが最近、PHRに対する関心がにわかに高まってきたことを背景に、カイザーパーマネンテのようにあらためて機能強化したPHRをリローンチする例も出てきている。このドイツのケースでは、国が管理している個人医療情報システムとこのPHRがどのような関係を結ぶのかが興味深いが、そのあたりはまだはっきりしない。
一方、ベンチャーやスタートアップ企業の動きだが、いくつか注目されるプロジェクトはあるものの、まだドイツ社会の中でプレゼンスを確立するまでには至っていないようだ。
まず、最近数週間のうちにいくつか医師レーティング(格付け)サービスが立ち上がってきた。その中でもHelpsterとImedo が有望とされているようだ。最近の米国の動向を見ても、医療評価の対象は「医療機関から医師へ」とシフトしつつある。つまり、組織のレーティングよりも個人のレーティングがより重視されるようになってきた。また、これらのトレンドは一般的に「医療の透明化を促進するもの」として歓迎されている。
だが、医療制度に対する規制強度と「医療の透明性」は反比例するといえるのではないだろうか。日本やEUのような国家による強いコマンド&コントロールのもとに従属する医療の透明性は、一般的に米国のような市場的性格の強い医療の透明性よりも低いといえる。そしてこのことは、生活者・患者の医療に対する選択性を弱めかつ狭め、医療機関間や医療者間の競争を阻害する結果につながっている。
医師レーティングは、生活者・患者に「医師の顔と技量」が見えるように可視化するものであり、そしてウェブこそはこの可視化を含め「医療透明化」を促進する最強のツールなのである。
一方、積極的に「医療マーケットプレース」を作っていこうとする動きもドイツに現れている。いわば「リバースオークション」とでも言うべきサービスで、ユーザーに医療選択を提供しようとしているのが2te-Zahnarztmeinung やArzt-Preisvergleichである。主として歯科が対象になっているが、複数歯科医によって提示された入札価格、そして歯科医レーティング・データを比較し、ユーザーが自分のニーズにぴったり合致する歯科医を選択できる仕組みを提供するものである。当然、従来のドイツ医療界からは批判が起きているようだ。
Health2.0の原理とはなにか。これについてはまだ議論が継続している段階である。しかし、その根本原理は「医療に開放性と透明性を求め実現する」ということ、「Openness & Transparency」に尽きるように思える。
<参考>
●”Germany’s largest health insurer to offer online personal health records”, British Journal of Healthcare Computing & Information Management
●”Health 2.0 Gaining Traction in Germany”, GigaOM, Saturday, November 17, 2007
三宅 啓 INITIATIVE INC.