「情報サービスだけでなく、医師の診療をオンラインで受けられたら。それも、いつでもどこでも、必要な時に・・・・・」。おそらくこれは、生活者がウェブ医療サービスに望んでいる究極的なことかも知れない。実は、インターネットを利用した医療サービス開発の黎明期から、生活者と医師をダイレクトに結ぼうとする様々な試行が存在してきたのである。だが結局、RelayHealth以外には、確たる成果もあげずに多くのチャレンジは挫折した。
オンライン診療サービスにはいろいろな障害が存在したわけだが、結局、その最たるものは医師の経済的インセンティブの確保であった。リアルの診療業務よりも同等以上の報酬を約束できなければ、医師を参加させるのは難しかった。逆に生活者・患者にオンライン診療を利用してもらうためには、「リアル診療よりも安上がり」であるような料金設定をしなければならない。一方には高く、一方には安く。どう考えてもこの「オンライ診療サービスの二つの経済的側面」は矛盾するのだ。
RelayHealthも試行錯誤を続け苦難の道を歩んだのであるが、結局、医療保険会社をクライアントに獲得するビジネスモデルへたどりついたわけである。そして時がたち、いよいよ「次世代オンライン診療サービス」を標榜するサービス「CareTalks」が登場する。
この「CareTalks」をリリースするのは医師起業家によるベンチャー企業AmericanWell社。
インターネットベースの技術はアメリカ人が商品やサービスを入手する方法に、オンライン取引を促進することによって革命を起こした。医療においてこの革命は、消費者に医療情報へのアクセスを提供することのみに限定されてきた。今日まで、消費者は自宅から医療サービスにアクセスし医療サービスを得ることはできなかった。CareTalksは新たな医療マーケットプレースである。CareTalksで消費者は、ウェブベースのビデオ会議や電話を使って、オンラインで自宅からただちに医師と話すことができる。医師は好きな時、好きな場所で電子診療を拡張できる。医療保険は新しいケア段階を売り出すことができ、高コストな状況からケアを移動することができる」。
「CareTalksは新たな医療マーケットプレイスである。」というところで「おやっ?」と思ったが、後を読むと「消費者-医師-医療保険」のプレイヤー三者が参画するイメージを「マーケットプレイス」と喩えたのであろうか。なるほど三者三様のベネフィットがしっかりと用意されているわけである。
たとえばマイクロソフト社の次世代医療イメージビデオなどを見ると、オンライン診療風景が当たり前のように登場する。そうなのだ、技術的にはさほど難しいことはないのだろう。だが、関係者全員が納得できるベネフィットを、特に経済的ベネフィットを具体的にどのように確保するか。そのためのスキームをどう作るかがこのサービスの要点である。
日本ではどうか。このようないわば「遠隔医療サービス」に、まず診療報酬が付かない現状を見ればビジネス成立は悲観的である。日本の皆保険制度、ユニバーサル医療サービスは確かにすばらしいのだが、こと新しい医療サービスを生みだすという点では、制度があまりにもタイトすぎるような気もする。
三宅 啓 INITIATIVE INC.