Health2.0ビジネスモデルの基本課題

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先月サンフランシスコで開催されたHealth2.0コンファレンスでは、スタートアップ企業を中心に25の新たなサービスがデモンストレーションされた。だがこれら新しいサービス群は、果たしてビジネスとして存続可能なのであろうか?。Health2.0コンファレンスにおいても、さまざまな形でHealth2.0のビジネスモデルについて議論が行われた。

コンファレンス後もHealth2.0ビジネスモデルをめぐる議論は、ブロゴスフィアで続けられている。これらを見ると、それらのほとんがWeb2.0ビジネスモデル議論をそのまま引き継いだかのような印象を受ける。ある意味でこれは仕方のないことだと思う。だが、医療固有の条件にともなう問題もいくつか提起されている。

まずコンファレンスで議論の前提として出された統計データをあげておく。(いずれも米国市場の数字)

  • 医療分野の検索市場はすでに600億円-1200億円規模にあると推定される
  • 1億6千万人がネットで医療情報検索をしている
  • 全医師のおよそ3分の2が毎日、業務上の理由でネットを利用している
  • Yahoo!では800万人が医療情報を検索し、14万の医療関連グループがあり、1万3千件のYahoo!Answerサービスへの質問があった
  • WebMDは4000万人のアクティブ・ユーザーを獲得している

これらの数字をもとに、Health2.0のような医療分野における新しいサービス市場はまだ初期段階にあるとの認識が、コンファレンス出席者のおおよそのコンセンサスであったようだ。

この初期段階において、Health2.0のほとんどのスタートアップ企業はベンチャーファンドの資金に頼っているが、無料サービスを提供しているために収入の道は限定されている。現状の多くのビジネスモデルが、広告モデルや医療サプライヤー(製薬会社など)との提携モデルであり、そのバリエーションの貧困さを危惧する向きは多い。

また、他の有効なHealth2.0ビジネスモデル創造をスコット・シュリーブ氏などが呼び掛けているが、果たして集合知によるビジネスモデル構築はうまくいくだろうか。またビジネスモデル以前に、そもそもHealth2.0型サービスがワークするためには、次の二つの条件がクリアされなければならないという指摘もコンファレンスではあったようだ。

・データの流動性
・コンテンツとフォームの分離

まず「データの流動性」であるが、これは今回のコンファレンスでさまざまな参加者から異口同音に使われたキイワードである。Health2.0ブロードビジョンでも見たように、個人の医療情報はさまざまな組織・団体に分散して保存されている。従来、これらはそれぞれの場所に固定され、他所へ自由に移動することはまれであった。だがPHRのように、一人の患者の健康状態を全体把握するためには、どうしても多数分散しているデータを一ヵ所にアグリゲートする必要が出てくる。そして「データの流動性」が確保されなければ、それは実現されないのである。

次に「コンテンツとフォームの分離」であるが、これはWeb2.0サービスの基本原理であると言えるだろう。

「HTMLが構造や様式の特徴(「フォーム」)の定義に使われ、XMLがフォームとコンテンツを分離した結果、あらゆるマッシュアップでデータ交換が可能になった」
(”The Web 2.0 We Weave”,Steve Poland,TechCrunch,Feb 12,2007)

「フォームとコンテンツの分離」のお陰で、われわれはデータを自由にシームレスにマッシュアップして利用できるようになった。ある意味で、これは先述の「データの流動性」の別の側面であるかも知れない。Web2.0ではよく「データは自由になりたがっている」というフレーズが使われるが、データを囲い込み、HTMLに幽閉するような1.0的発想から脱却しなければ、Health2.0は成立しないのである。

さらに、Health2.0ビジネスに立ちはだかるものとして「医療業界に特徴的なさまざまな基準、規定、規制の類」があると、コンファレンスでは指摘された。これらさまざまな「スタンダード」は、特に「データの流動性」の障害になっているのである。コンファレンス席上、Googleのプロダクト・マーケティング・マネジャーであるミシー・クラスナー氏は「医療にはスタンダードが多すぎる」と断言し、消費者中心主義やリテールクリニックなどへ向うムーブメントが、広範囲に受け入れられる事実上のスタンダードへと医療業界を動かしていくだろう思う、と述べた。またマイクロソフトのニューパート氏は「完全主義は良きものにとっての敵である。」とまで発言している。

もちろん、「プライバシー、セキュリティ、ポータビリティ」といった基本セットはしっかり確保されなければならないだろうが、それ以外のもっともらしい「スタンダード、レギュレーション類」はできる限り必要最低限度の水準に抑え込まなければならないだろう。

思い返せば、かつて「eヘルス」などと言っていた「医療1.0時代」には、民間でいろいろな団体がサイト基準をはじめさまざまなスタンダードを勝手に考案し、結局社会的認知も得られずに終わった。中にはこれら「スタンダード」を商売のネタにする人々まで出てくる始末であった。

「1.0の残滓」を払しょくし乗り越えることが、当面、Health2.0ビジネスに課せられた課題である。

参照:”Technology leads business models in Health 2.0″, “Healthcare IT Blog”, Jack Beaudoin on Thursday, September 20th, 2007

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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