とうとうプロトタイプが公表されたGoogle Health。医療系のブロゴスフィアではこれをめぐって話題騒然である。だが、まだプロトタイプということもあり、ディテールを論じるケースは少なく、むしろ医療改革という大きな文脈において、Googleを筆頭とする医療にとっての「外部新興勢力」の役割を論じるブログを多数見かけた。
「医療とは、他のビジネス社会から最も遅れた領域である」という言葉も、様々なブログで異口同音に語られているが、この「医療=遅れた領域」に対するいわば「外部のチェンジ・エージェント(変革推進者)」として、GoogleやMicrosoftなどの企業に期待を寄せる声が多い。
これはブッシュ政権がぶち上げた国家プロジェクトNHIN(National Healthcare Information Network)の2012年実現という目標が、主として医療界側の反応の鈍さもあり、どうやら実現があやしくなってきていることも関係しているのだろうか。「国と医療界」よりも、外部のチェンジ・エージェントに期待する声のほうが多く、とりわけGoogleに対する期待は過熱気味ですらある。
だが発表されたGoogle Healthプロトタイプを見ると、何の変哲もないPHRである。Google HealthがPHRであることは予想されていたが、ここまで「フツーのPHR」の画面を見せられると、期待が大きかっただけに失望とまでは行かないものの、何か脱力感に襲われる。まさに、「期待は失望の母」である。
ブロゴスフィアでは「画面がセクシーではない」とか「見た目がよくない」などの批判も多いが、そこはまだプロトタイプであるから改善されていくのだろう。また、装備された機能もおおむねPHRとしては妥当なものであるが、何か画期的な新しさも欲しかった。これもGoogleは、これまでのGmailやMapsやSpreadSheet&Docsのように、後でどんどん追加していくのだろう。
Google Healthが直面する難問は機能や技術の問題ではない。それはむしろ、現状の米国医療システムに、Google Healthをどうきちっと連動させてワークさせるかという問題である。とりわけ個人医療情報を医療機関やペイヤー(保険会社)から調達し、スムースにGoogle Healthにアップすることができるかどうかが問題となる。
その際、いくら患者からデータを請求されたといっても、「Google Healthにデータを入力するため」という理由で、はたして医療機関側がすんなりデータを提供するものだろうか。はたしてペイヤーは医療費データを喜んで提供してくれるだろうか?。そしてこの一連のデータ入力を、オンラインで自動化できるかどうかも大きなポイントになるだろう。現状Google Healthプロトタイプだと、ユーザーが手入力するケースが多すぎるような気もする。
プロトタイプは公表されたものの、Google Healthが直面する未解決の問題は山積している。しかし、日本ではなぜ誰もPHRを作ろうとしないのだろう?。これは大きな謎である。たしかにEHRは、いろいろなところで検討されているのだが、PHRとなると学会でも業界でも、日本ではまず話が出てこない。
時間はかかるだろうが、Google Healthはいずれ日本にも来るだろう。それまで日本の医療界や保険団体やベンダーは、単に指をくわえて見ているだけなのか?。
illustration: “Healthcare Symbolism” by Scott Sshreeve MD
関連ページ
ベールを脱いだGoogle Health
三宅 啓 INITIATIVE INC.