TOBYOプロジェクトの現在

11月最後の日曜日。今月を振り返ると、医療情報に関する話題が多かったような気がする。日本語圏ウェブにおける医療情報の現状は、まさに「悪貨は良貨を駆逐する」ような状況にある。全体として医療界や行政などから配信される医療情報の絶対量が不足しており、根拠の定かでない情報が圧倒的に多い。ネット上の医療情報の不確かさに注意喚起するだけでなく、とにかく医療界および行政側の医療情報配信の量的拡充が望まれている。そんなことを強く考えさせられた。

さて今月、TOBYOの収録疾患数は1000件を越え、乳がん闘病サイトの収録件数は1800件を越えた。国内で1800人の乳がん体験へアクセスできるのはTOBYOだけだ。1800人の乳がん体験に、今すぐ即座にアクセスすることができる。これはGoogleなど従来の検索エンジンでは実現できないことだ。乳がんのみならず、他の疾患においても、TOBYOはすでに国内最大の闘病サイト件数を収録している。サイト総収録件数は2万5千件に近づいているが、ようやくTOBYOは闘病者のニーズに十分に応えられる量的規模に達してきたと考えている。

また1800人の乳がん闘病サイトの中から、年齢層、サイト開設年次で絞り込み、さらに治療方法、現住地、薬剤などタグで細かくフィルタリングすることによって、自分と同じような体験者の記録を簡単に見つけることができる。TOBYOが実装している機能は非常にシンプルだが、データ量が十分に確保されるにつれ、そのシンプルさが活きてくる。 続きを読む

11月22日、コンサートの夜

UTAU

昨日11月22日は「いい夫婦」の日。それでと言うわけでもないが、仕事を早めに切り上げ、三軒茶屋で妻と待ち合わせ、昭和女子大の人見記念講堂で大貫妙子と坂本龍一のコンサートを聞いた。夕暮れ時に小雨が降る11月の街を足早に歩いていると、何か気持ちが静まるような瞬間に出会うことがある。そんなことを考えながらコンサート会場に着いた。

コンサートは予想以上に良かった。大貫妙子の歌をかれこれ35年は聞いてきたが、その表現は以前にも増してピュアで深い。一曲一曲の静寂な佇まいが、ちょうどこの季節のこんな夜の空気と解け合う時間を体験した。アンコール最後の曲「風の道」の余韻を胸に、雨の夜を家路についた。

DFCシステム開発の遅れと格闘しながら、新しい勇気を得たような気がした一夜だった。

三宅 啓  INITIATIVE INC.

Health2.0 SF 2010の冒頭イントロで紹介されたTOBYO


先月サンフランシスコで開催されたHealth2.0 SF 2010の公式ビデオがアップされ始めた。その中で、第一日目冒頭”Welcome and Introduction to Health 2.0″のインドゥー・スバイヤ氏の発言を見ていたのだが、なんとTOBYOのことが触れられていた。

ビデオ開始から4分48秒あたりからインドゥー・スバイヤ氏が”What’s changed in Health2.0″について「四つのステージ」の説明を始める。そのうちの第一ステージ”User Generated Healthcare”において、ブログなどUGCに着目した新しいサービスとして、データ・マイニング・アプリケーションを使ったもの、そして検索エンジンを使い広範囲のブログをインデックス化しデータを構造化し可視化するもの、と二つのサービスに言及している。これを聞いてドキッとしたが、続いてインドゥー・スバイヤ氏は「二つの企業が今日デビューする。一つは日本から、一つはイスラエルから」とアナウンスした。これはもちろんTOBYOとイスラエルの「ファースト・ライフ・リサーチ」のことである。

このようにHealth2.0コンファレンス冒頭で紹介してもらえるとは、まさに光栄の至りである。(ただ、欲をいえば「TOBYO」と実名で紹介して欲しかったなぁ)。そしてまた、私たちのTOBYOやDFCのコンセプトが、世界へ持って行っても即座に理解され評価してもらえたということが本当に嬉しい。そして、ほぼ同時期にイスラエルから登場したファースト・ライフ・リサーチとTOBYOやDFCが、UGCに着目した新しい医療情報サービスのイノベーションであることをあらためて確信した。 続きを読む

「フラット化する医療情報」時代のリテラシー

HealthLiteracy

11月12日付け毎日新聞、東京版朝刊の記事「健康情報:見極めるには リスク、便益、費用…比べ選択 事例、還元し学び合う環境を」で、ほんの少しだがTOBYOが紹介されている。この毎日新聞記事は、先月掲載された朝日新聞記事「ネットの医療情報、見極める」とほとんど同じテーマを扱っている。おそらく朝日の記事に触発されたのだろう。

記事では、「二人の中山教授」による医療情報リテラシー解説が中心になっているが、特に中山和弘・聖路加看護大教授の下記コメントに共感した。禿同。

似た境遇にある人同士の体験情報の共有は「社会的なヘルスリテラシーを上げることにもつながる」と期待する。「自分だけ良い情報をもらって良い意思決定をしようというのは難しい。成功例や失敗例を還元し、学び合う環境をみんなでつくっていく意識が必要だ」

インターネットの登場により、『上意下達式に「正しい医療情報」を拝受する』という情報パターナリズムが過去のものになり、医療情報がフラット化してしまった以上、ネット上にオープンになった情報を「ユーザーが評価し、共有し、活用し、さらに評価する」という実践的利用サイクルをまわしていくことが重要になっている。極論すれば医療情報は「伽藍」からありがたくも説教されるものではなくなり、「バザール」でオープンに価値付けされ交換され共有されるものになった。「独占的に上から降ってくるもの」ではなく、「フラットに評価・共有されるもの」へと変わったのだ。これらの結果として、「個のエンパワーメント」が強化された反面、ユーザー一人ひとりの自己責任に帰せられる部分も増えた。 続きを読む

UGCソースのリサーチシステムについて

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開発中のDFCだが、医薬品、医療機関、医療機器、治療法など固有名詞の出現状況をテストしている。まだ全体を把握するところまできていないが、やはり基礎となるデータ量の十分な確保が何を置いても前提になることが痛感される。TOBYOの収録サイト数は今年中に2万5千件を超える見込みだが、今後も継続して積み上げを図っていくことになる。

私たちのDFCと同じような発想で開発されているイスラエルのFirst Life Researchは「16万サイト、100億レポート」を豪語しているが、掲示板やSNSなどにある闘病体験まで片っ端からクロールしているようだ。もちろんデータは多ければ多いほど良い。私たちの経験からすれば、マーケティング・リサーチに十分対応するシステムを作ろうとすると、最低でも300万ページ以上のUGCデータが必要だ。しばしば、「信頼性などデータの質の問題をどう考えているのか?」と訊かれることがあるが、UGCソース、あるいはソーシャルメディア・ソースのリサーチというものへ一歩踏み出すためには、当然、従来の「データの質」の見方も変わってくるだろう。

「量は少ないけれど質は高い」みたいなデータ観ではなく、UGCやソーシャルメディアの時代には「大量のデータを確保すれば、そこに含まれる良質のデータの絶対量も多いはずだ」というデータ観が必要になっている。データを集めるコストは劇的に下がっているのだから、前提となるのはあくまで「量」となっている。はじめから一つ一つデータの「質」を吟味するよりは、とにかく大量にデータを収集し、あとで選り分ける方が効率的だ。First Life Researchなどはこの考え方を徹底的につきつめたシステムだと言える。 続きを読む