ネット時代の医療マーケティング

Manifesto

TOBYOマーケティング・レイヤーの着想にたどり着く過程で念頭にあったのは、昨日のエントリでも触れたが、「20世紀マーケティング復古」とは異なる新しいマーケティングの構想であるが、同時に思い出したのはデビッド・ワインバーガーらの“The Cluetrain Manifesto”のことだ。

ネット時代の新しいマーケティング像を宣言したこの”The Cluetrain Manifesto”は、Health2.0ムーブメントにも大きな影響を与えている。Health2.0に先駆けて2006年秋、米国西海岸で発表された“Health Train : Open Healthcare Manifesto”は、まさに”The Cluetrain Manifesto”の医療版と言えるだろう。 続きを読む

医療マーケティングのデータインフラをめざして: TOBYOマーケティング・レイヤー

shinjuku_20091216

昨日エントリで見たように、TOBYOプロジェクトの全体イメージは三つのレイヤーで整理できる。そのうち第三レイヤーは今後公開することになるが、いろいろ考えた末「マーケティング・レイヤー」と名付けた。個人的には、なんだか少し気恥ずかしいネーミングである。

かつて「20世紀型のマーケティングは終わった」との思いを強く持ったのは、ちょうど10年前の1999年の年末頃。コンピュータの「2000年問題」なんかが取りざたされていた時期だが、もっぱら当方の関心は、繁栄を極めた20世紀の広告とマーケティングがはたして世紀を越えて存続できるものかどうかにあった。すでにCRMなども登場していたのだが、それらの発想には、何か古い尻尾を引きずっているところがあるような気がした。認知科学の応用なども提起されてはいたが、そんな小手先の対応で「マーケティングの終焉」を救うことはできないと思えた。

それから10年間、ある意味では意識的にマーケティングから離れようとしてきたのだが、ここへ来て再び「マーケティング」に出会うことになろうとは思ってもみなかった。だが、この10年間の大変化を経て、かつてのマーケティングをそのまま復古させるわけにはいかない。まったく違う「マーケティング」というものを考える必要があるだろう。他方、近年再び「ソーシャルマーケティング」あるいはCSRという言葉をあちこちで目にするようになった。これらの言葉は1970年代後半の米国で登場したのだが、今日、新しい時代の文脈で新しい意味を持って使われるようになった。 続きを読む

TOBYOプロジェクトの現状と将来

tobyo_business0912.png

昨年2月、TOBYOアルファー版を公開したとき、いろんな人から感想や質問をいただいたが、それらは概ね次のようなものだった。

「闘病記の単なるリンク集か?」、「ブログランキングみたいなもの?」

これら私たちに向けられた当時の感想や疑問は皆、ごもっともなものであった。だがごもっともなゆえに、いちいち反論するつもりもなく、私たちは闘病ユニバースを可視化するために、ひたすらメタデータを付けながらネット上の闘病体験データを分類整理していった。闘病ユニバースのコアデータを十分に集めることによって、ようやくTOBYOは次の段階へ進むことができるからだ。いずれにせよ、TOBYOプロジェクトの最下層にあるのはデータ・レイヤーである。 続きを読む

闘病サイトとライフログ

Shinjukuk_West

先週の続きになるが、「闘病記」という括りから、闘病サイトで展開されている闘病者の一連の活動を分けて考える必要がある。従来そこがどうも一緒くたにされてしまい、「闘病記の亜流」みたいな形で闘病サイト上のコンテンツが扱われてきたことが、結局、今ネット上で起きている闘病者の新しい情報活動を見えにくくしているのだ。リアル闘病本の延長線上で闘病サイトを見てしまうから、医療に対するインターネットの可能性と闘病者の活動を過小評価してしまうのだ。

インターネット黎明期から出現しはじめた闘病サイトは、同時に誕生した病院など医療機関サイトや製薬企業サイトよりも、いわゆる「ネット的な性格」を強く持っていた。病院サイトなどがトラディショナル・メディアの発想つまりワンウェイ思考で作られていたのに対し、闘病サイトは自分の医療体験をライフログとして記録し、不特定の「誰か」との共有を想定して公開されたのである。そこには、最初からインタラクティブなコミュニケーションが前提されていたのである。 続きを読む

闘病サイトと闘病記

Railway_0911

昨日のエントリに記したように、今後、TOBYOプロジェクトは闘病サイト支援事業を何らかの形で立ち上げたいと検討をはじめている。端的に言ってしまえば、私たちが焦点化しているのは「闘病記」ではなくて、インターネットで闘病サイトを運営している闘病者たちだ。

たしかに、闘病サイトには「闘病記」と呼ばれるコンテンツが掲出されているだろうが、両者の関係は

闘病サイト = 闘病記

ではなく、

闘病サイト > 闘病記

であるはずだ。

別の表現をすれば、私たちはたとえば「e-Patients」と呼ばれるようなネットで情報武装された新しい患者像とその行動に注目している。彼らを「闘病記の作者」として見るのではなく、「闘病サイトを活動拠点とするネット闘病者」として見るべきだと考えている。

つまり私たちは、今医療に起こりつつあるまさにネット的な現象と、ネットによってエンパワーされた新たな闘病者像とに関心を持っている。そして、彼らがもっと便利に活動出来るようなツールや、彼らの発した声がもっと広く力強く社会に届くような仕組をTOBYOプロジェクトで実現させたい。

もはや彼らは単なる「闘病記作者」ではなく、もっとアクティブな存在であり、医療全体を変えるパワーを持ち始めたのだ。そこを積極的に評価しなければいけないと思う。

三宅 啓  NITIATIVE INC.