医療分野におけるデータ公開・共有の新展開

SageCommons

「真実を認める時が来た。われわれは創薬、薬品開発を、正しいやり方ではおこなっていない」と書かれたこのビジュアルは、去る4月23-24日、サンフランシスコで開催された“Sage Commons Congress”冒頭プレゼンテーションPurpose of Congress“の一齣である。そしてさらに「新薬承認にかかる現在のコストは、10億ドル、5-10年である」、「そして抗癌剤の75%は効かない」とのフレーズが続く。このプレゼンは製薬業界を批判するものではなく、より早く、より安く、より効き目のある薬を開発するための提言である。

新薬開発などにWeb2.0の集合知の流儀を導入し、ユーザーの生の声を開発現場に伝え、従来よりも圧倒的なコスト圧縮とより良い製品開発を実現しようという提言は、「ウィキノミクス—マスコラボレーションによる開発・生産の世紀へ」(ドン・タプスコットアンソニー・D・ウィリアムズ、日経BP) などで既に語られていたが、最近、これら構想を実際に実現しようとする具体的な動きが多数見られるようになった。この”Sage Commons Congress”(Share-Evolve-Cure)もその動きの一つである。

考えてみれば、PatientsLikeMe、Sermo、23andMe、そしてわれわれのTOBYOなども、患者や医療者が生成するデータを新薬開発などへフィードバックするものであり、この「マスコラボレーション」というコンセプトの実践をめざすものである。だが、”Sage Commons Congress”などを見ていると、単に一企業やグループ企業のみならず、もっと医療界横断的に知識・データ共有を進めようという意図が伝わってくる。最近、ティム・バーナーズ=リーなども「オープン・データ」を呼びかけているが、ロウ・データをウェブに公開することによって社会的な新しい価値が創造される。これに応えて、米国政府や英国政府は手持ちのロウ・データをどんどん公開し、民間で自由に使うことができるようになってきているが、この動きは医療部門においても進んでいる。

ところで医療情報とくに個人医療情報については、これまで常に「プラバシー&セキュリティ」という常套句を言い立てる向きもあったが、時代は変わり、これからはこれらをどのように有意義に公開し、その利用ルールを定めるかに問題の焦点は移動するだろう。もちろんプライバシーもセキュリティもまだ依然として重要ではあるが、それよりも新薬や新治療法開発のコストダウンによって得られる社会的利益のほうがまさる場合もあるのだ。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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