これまでの治験(医薬品や機器開発のための臨床試験)は、調査目的に合致する患者をリクルートするための手間と時間がかかるため、専門調査機関などに高額の手数料を払って実施されてきた。しかし最近では、ネット上で治験を実施する研究機関と被験者である患者をダイレクトに結ぶようなサービスが多数出現している。
ニューヨークのスタートアップ企業TrialXもその中の一つであるが、治験者側の調査目的と患者の症状を自動的にマッチングさせる機能を開発している。特に注目されるのはHealth VaultとGoogle Healthの二大PHRから、自動的に必要なユーザーの医療データを集め、ユーザーの手を煩わせることなく候補治験プロジェクトとマッチングさせるサービスである。もちろんこのサービスは、二つのPHRのうち、いずれかのアカウントを有する患者の承認によってのみ機能する。
このようにPHRをベースにした連携サービスが、現在、様々な形で開発されているが、治験市場においていち早くPHRとの連携メリットを打ち出したのがTrialXだ。PHRが外部プレイヤーに対してオープンなプラットフォームであることのメリットを見抜き、それを早速活用しているわけだ。現にHealth Vaultは、内部完結型のサービスであるよりも、外部プレイヤーとの連携を重視した「プラットフォーム」になることを、最初から強く意識してきている。
これまで医療ITと言えば、各医療機関にEMRなどを導入することがまずイメージされてきた。次に、それら「点」として分散する拠点を結ぶEHRやRHIOが構想されてきた。だがPHRは、これら医療ITの従来イメージを根本から変えようとしている。まずPHRが医療情報とマーケティングのオープンなプラットフォームとしてあり、そこへ様々なプレイヤーがこれまでにない新しいアイデアを持ち込み、多数の連携サービスからなる新しい医療情報経済圏が生まれるような、そんなイメージになるのではないだろうか。そして、Health2.0のスタートアップ企業群は、この新しい経済圏に積極的に参加し、その重要なプレイヤーになるのではないだろうか。そんなことを予感させるTrialXの登場である。
三宅 啓 INITIATIVE INC.